深化する企業の社会貢献のかたち

2014年6月

サッカーワールドカップや2020年の東京オリンピックに向けて、イベント支援の協賛を検討している企業も増えているのではないだろうか。

現在でもCSRの狭義として、社会貢献活動が意味されるように、企業の社会的な役割として、金銭的な寄付や製品やサービスなどを通じた現物供与はCSRの一要素となっている。同時に、企業の社会貢献の形はその時代や地域の特性が反映され、CSRの変遷をみることができる。

企業の社会貢献は、1980年代のバブル経済の時期に、企業メセナといわれ、芸術・文化への寄付や美術品の購入などが行われた。メセナは、ローマ帝国の初代皇帝アウグストゥスの文化面での補佐役であったマエケナスの仏語に由来することはよく知られる。

90年代には、1992年にブラジル・リオデジャネイロで初めて開催された地球環境サミットを契機とした環境保全への意識が高まり、環境関連の社会貢献プロジェクトが数多く始められた。日本企業による国内外の森林保全事業もこの時期に開始されたものが多い。

2000年代に入り、CSRの概念が広がるようになり、本業を通じた社会への貢献が、企業の社会的な責任であるという認識が広がる。各社がCSR方針を定め、これまで経営層のトップダウン方式で決められていた寄付や社会貢献の取組も少しずつ変化するようになる。

自社の社会貢献方針を定め、たとえば環境保全、文化芸術、教育支援など、分野や対象を定めて支援をする。同時に、自社の本業や企業理念に通じる事業やイベントへ一貫したメッセージをもった社会貢献が進んできた。さらに、自社製品の売上や利益の一部を対象分野に寄付するソーシャル・マーケティングと呼ばれる分野が大きく拡大するようになる。

ソーシャル・マーケティングは、海外企業で体系化されてきたが、国内でも東日本大震災後にも被災地支援の取組として大きく拡大した。

製品の売上に対する一定割合だけでなく、飲食や音楽、クレジットカードの利用、預金やイベント開催による収益の一部を寄付するプロジェクトである。こうした様々な社会貢献の形を経て、各社の社会貢献プログラムは深化しつつある。

昨今の企業の社会貢献には、事業を通じて新たな価値を社会に創造するCSV(Creating Shared Value, 共有する価値の創造)という考え方が広がっている。社会的に価値の高い自社の事業を通じて、直接的な顧客だけでなく、顧客が製品やサービスを通じて、間接的に社会全体へ貢献するという考え方である。これは、企業理念の根幹として日本的経営に根付いている考え方と共通するものであろう。

今後、海外からの観光客やビジネスパーソンも増え、世界各国との交流がより活発になると共に、高齢化社会が進み、多様化する社会の課題に直面することになろう。同時に、企業の事業形態や事業戦略も変化していく。社内外の多様なステークホルダーとの対話によって、企業の社会貢献の形態もますます深化し、CSVの実現が広がることを期待したい。

*本稿は、2014年6月に通信新聞に掲載された内容を、同社承諾のもと一部編集して転載しています。