成熟した地域社会を支える最新技術とCSR

2015年7月

4月30日に日本郵政グループの各社が米国のIBM社及びAPPLE社と連携して、今後の高齢者向けサービスの実証実験を共同で実施することが発表された。日本国内にいる65歳以上の高齢者は3300万人を超えるが、郵便配達を通じてほぼすべての人と何らかのつながりがある郵便サービスに、高齢者が活用しやすいアプリケーションやタブレットを提供することが計画されている。

昨年9月の本稿でも触れたように、日本郵便で実施されている高齢者向けの「みまもりサービス」は、社会の課題を解決する事業として、CSRの大きな取組であると同時に、ソーシャル・マーケティングとして、顧客の副次的な効用を作り出すサービスであるともいえるだろう。今後、急速に高齢化と共に単身住まいが進む日本各地の高齢者とその家族や知人とのコミュニケーションに大きな役割を果たすことが期待される。

高齢になるにつれ、単身世帯も増え、一日の中で話をしたり、声を発する機会も少なくなる傾向にある。これらのコミュニケーション不足を、最先端のIT技術を通じて郵便配達等の機会に高齢者に提供することにより、運動能力や感情表現の機能維持に大きな役割を果たすことが期待されよう。高齢者をサポートする家族や介護従事者へのプラス効果も大きいと考えられる。

さらに買い物や医療サービスなどの日常生活への発展につながることになれば、単身高齢者世帯の生活の利便性に大きな役割と果たし、在宅介護等の負担も軽減される可能性もある。さらに、災害時などの孤立なども防止でき、地域のコンパクト化などを進める段階でも重層的な安心感を提供できる手段として活用できるであろう。

IT会社からみても、世界で最も早く高齢化社会を経験する我が国において、高齢者向けのサービスを開発することができれば、国内だけでなく世界での展開も可能になってくるであろう。

これまで最先端の携帯端末やタブレットを活用して生活や業務の利便性を向上してきたのは比較的若い世代であった。しかしながら現在、タブレット型端末を含め、様々な家電製品が、インターネットとつながり、情報機器としての機能をもつI of T (Internet of Thingsの略)の時代において、簡便な使用方法が周知できれば、高齢者層にもその利用は大きく広がる可能性がある。

筆者も15年以上の介護経験のなかで、IT技術の活用により、高齢者本人のコミュニケーションや日常生活の”生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)”を高めることができる可能性が高いことを確信している。今後、先端技術を通じて実施可能なサービスや製品は加速的に増えていくことが予想されるが、最終的に社会がそれらのサービスや製品を受け入れるかどうかは、人としての感受性やあたたかみといったソフトの部分と、利便性や機能というハードの部分のバランスや比重にかかってくるものになろう。本実証実験により、豊かな高齢社会の実現に向けたサービスが開発されることを期待したい。

*本稿は、2015年7月に通信新聞に掲載された内容を、同社承諾のもと一部編集して転載しています。