次世代のCSRに向けたマテリアリティ

2014年10月

ノーベル物理学賞に青色LEDの開発に成功した日本人3人の受賞者が決まった。電力消費が少なく耐久性の優れたLEDの普及により、世界全体で環境負荷の低減効果と共に様々なよい効果が生まれている。

受賞インタビューの中で、流行にとらわれず、自分が継続して達成したいと思う研究するテーマを選ぶことが重要であるというコメントがあった。どの分野においても目標設定は成功の重要な要素になるという大きな示唆である。

企業の社会的責任といわれるCSRの分野では、世界で進められているガイドラインや指標の多くで、“マテリアリティ(重要性)”という考え方を採用している。

CSRには、ガバナンス、労働、環境、社会貢献、製品サービスのイノベーションなど様々な分野があり、これらの大分野の中には、中小分類に区分すると数十項目以上となるテーマがある。

これらのテーマのすべてを重点的に取り組んでいくことは困難であるため、各社が自社の事業や内外環境から重要な項目を選び、その項目を中心に目標設定をして進捗状況を管理する仕組みが推奨されている。このため、自社にとって重要な(マテリアルな)項目として選定された内容こそが自社CSRの重要テーマとなり、目標設定や内外への情報開示の対象となる。

したがって重要性(マテリアリティ)のあるテーマを選定するプロセスはCSRの基本方針の策定ともいえる。

このため事業分野、事業ポートフォリオ、所在する地域や制度を踏まえた外部からみた視点に加え、自社の中長期戦略や事業目標、社内的な課題や重点テーマを踏まえて選定していくことが必要だ。ここで重要なのは、CSRを個別の経営テーマとして捉えずに、経営戦略、事業計画を達成するための枠組や基盤として、経営指標に捉えるという位置付けである。

すでに多くの識者にも指摘されているように、CSRは経営と一体化しているものであり、持続的な経営や中長期計画を達成するための経営基盤である。したがって、例えば、事業戦略を達成するためにどのような人材が必要なのか、どのような環境対策が製品の価値を高めるのかという議論を重ね、中長期的に自社の事業分野にとって必然性が高く、また達成意欲が高まる項目や目標をマテリアリティとして選定したい。

しかしながら、これまで重視してきた項目は過去数年にわたりデータ収集も行われている一方、新たな項目は自社や連結グループ全体のデータ集計されていないために、目標が詳細に設定できないこともある。マテリアリティ選定に向けて、第一段階としてはデータの有無やデータ集計が必要になることもあるだろう。

法案化が予定されている女性の管理職数の拡充や役職者の開示義務も、これまで把握していなかったデータの確認という意味で、現状把握の機会となる企業もあるかもしれない。

現状把握は課題解決の第一歩となる。CSRのマテリアリティ選定は、次世代の会社の重要テーマを選定するというプロセスである。現状を把握し、変化が加速するグローバル経済の時代に、中長期に色あせない会社の方向性を定めたい。

*本稿は、2014年10月に通信新聞に掲載された内容を、同社承諾のもと一部編集して転載しています。