社会の課題を解決する事業 

2014年11月

日本で企業の社会的責任(CSR)に関する取り組みが活発になってから10数年の間、経営課題の移り変わりとともに、CSRに関する取り組み事由としても様々な論点が出されてきた。

主なトピックだけでも、地球温暖化対策、経営のガバナンス強化に伴う日本版SOX法、個人情報保護に向けたリスク管理、リーマンショック後の経済危機における労働雇用問題、震災時の危機管理や震災後の社会貢献、そして女性登用の拡充に向けたダイバーシティなどが挙げられる。

日本企業の多くは、CSRに取り組む以前から環境問題に関する積極的なマネジメントを進めており、自社の環境対策に加えて、環境負荷の少ない技術やサービスを継続的に開発普及させてきている。

このように時制に応じて企業経営の課題となるCSRの課題は変化する中、日本国内では消費者が企業に期待する役割や社会的責任として、一貫して強く期待していることは『本業を通じてよい製品・サービスを提供すること』となっている。一般財団法人経済広報センターが10数年にわたり実施している「生活者の“企業観”に関する調査」では、企業の責任は、「安全・安心で優れた商品・サービス・技術を適切な価格で提供する」ことであるという回答が常に最多となっており、昨年は商品やサービスの購入時にその会社のCSRを考慮するという回答も約8割となった。

企業のステークホルダーは、消費者に限定されるものではないが、このように本業を重視するCSRの方向性は、世界共通の価値観であろう。

近年、「社会と共有する価値を創造するCreating Shared Value, CSV」という概念がCSRのメッセージとして取り上げられている。これは、ハーバード大学のマイケル・ポーター教授が提唱している考え方で、企業が社会的な課題解決や社会がよりよくなるような製品やサービスを開発し、企業の売上や利益といった経済的な価値とともに、社会的な価値を創りだしていこうという概念である。

例えば省エネや環境負荷の低い製品やサービスを開発し、普及させることで、地域の大気汚染が減少し、地球全体ではCO2などの温室効果ガスが削減できる。日本企業が進めてきた環境経営の多くはこのCSVの概念と合致する取り組みといえよう。

しかしながらCSVに関しては、とにかく本業の取組を進め、社会的な課題解決につながるような商品やサービスを提供することが重要だという、ビジネスに焦点が当たりすぎることもあり、企業内の取組を軽視しているのではないかという課題も提示されている。

本業も企業内部の経営改善も双方を横断的にカバーするCSRには、これさえ実施すればよいという単純な解はない。しかしながら、本業において社会的価値を示すことができる企業はその内部でも、継続的な改善や改革が進められていると考えられる。その中には、顧客だけでなく、社員の意欲や働き甲斐も反映されていることであろう。したがって、本業を通じたCSRはいつの時代もCSRの軸となる取組であるともいえるであろう。

*本稿は、2014年11月に通信新聞に掲載された内容を、同社承諾のもと一部編集して転載しています。