CSRと地域社会

2015年4月

海外拠点のCSRの意義

日本企業の海外進出と共に、海外の企業を買収する動きは、様々な業種で進められている。財務や製品・サービスの品質管理だけでなく、環境マネジメント体制の確立や、労働法令の順守、ダイバーシティの確保、また各拠点のグループ会社の取引先などを含めたサプライチェーンのコンプライアンスも、大企業の社会的責任であり、同時にガバナンス・リスク管理として重要な取組になっている。

日本国内にある日用品をはじめ、多くの製品は、その製造、加工、梱包から販売までの過程で、国内で完結している商品は少なくなっている。サービスの問い合わせなどを対応するコールセンターやソフトウエア開発などのサービス業においても、日本語に堪能な管理者のもと、海外でデータ管理やサービスの一部を実施している企業が増えている。

これらの企業の海外拠点において、あるいは発注先である現地企業との取引において、品質と価格だけを要件とするのではなく、品質と価格に加え、法令上必要な労働安全衛生法令への順守や環境保全、汚染予防等の取組を実施するように明示して要請することが、海外拠点あるいは取引先を含めたサプライチェーンのCSRである。

労働安全衛生や環境保全に関して、詳細項目まで明示して取引条件とすることはこれまで一般的ではなかったが、近年大手企業を中心に始められている。労働安全衛生については、若年労働の禁止や作業環境における安全衛生の確保、長時間労働の抑制や、各種差別の禁止等がある。環境保全については、製造業では最終製品に含有する化学物質の管理は先行して進められているが、これらに加え、拠点やサプライチェーンの業務全体における汚染予防や省エネルギー、生態系の保護等がある。これらの項目は数十項目に及ぶこともあるが、海外拠点の管理者や又は現地の取引先に明示することで、現地経営層の意識が変わり、その企業で働く雇用者の雇用環境も向上することが期待できる。現地地域での環境汚染の防止、それに伴う疾病等の予防にもつながる。

こうした取り組みは、企業内では価格や品質を重視する部門と、環境・CSR部門等との間で短期的な目標達成のために利害が衝突することもあるが、中長期的に企業が目指す方向を考えた場合には、調整も進みやすいであろう。

海外拠点の取組においては、世界の共通言語として英語を中心に進められることが多く、このために欧米各国に加え、新興国でも英語が普及している国から広まりやすい傾向にある。日本企業は、国内では取組が行われているものの海外担当の人数が限定され、CSRやサプライチェーンの管理における環境・労働安全衛生まで手が回らないことも少なくない。

しかしながら、国内でも上場企業へのコーポレート・ガバナンスコードが推進され、これらの取組は中長期的に必須の分野となる。日本企業の海外でのプレゼンスが高まると同時に重要性が高まることが予想される。その人材育成には積極的に取り組むことが望まれる。

*本稿は、2015年4月に通信新聞に掲載された内容を、同社承諾のもと一部編集して転載しています。