グローバル環境ブログ

投資家から見たCSRレポート

GRIの新たなガイドラインG4の発行や、今年末に予定されている統合レポートのガイドラインなどの方向性を受け、CSRレポートの改定や、環境報告書(環境・社会報告書など)の内容や構成の見直しを検討している企業が増えているのではないでしょうか。

企業価値に占める無形資産の割合は、過去30-40年で大きく増え、企業価値の8割が無形資産から評価されるようになってきています。一方、従来型の財務報告では、十分に無形資産が説明・開示されていないため、CSRレポートをはじめとする非財務情報の重要性は増しています。

欧州の投資家からみた非財務報告書の現状や課題、期待するものについてまとめられた報告書が公表されました。投資家に対しても評価されやすいCSRレポートを作成するのに参考になりそうです。

報告書では、現状の非財務報告は不十分であるというメッセージが一貫して示されていますが、そのなかでも非財務報告として「最も参考にするのは、各社のCSRレポート」ということで、統合レポートなどが定着するまで当面は、CSRレポートは重要な情報源であることは間違いなさそうです。

また、本調査によると、欧州委員会が今年4月に発表した非財務報告の義務化法案に記載されている内容に加えて、以下の内容を開示することを期待しているとのことです。
(欧州委員会の非財務報告義務化については、こちらをご参照ください) 続きを読む

産業用地の土壌汚染発生率:日米でほぼ同じ

数十年にわたり化学物質などを使用して操業していた工場で、土壌汚染があるかどうかは、国が違っても大きな違いはないようです。

6月に参加したアメリカの会議では、米国の製造・サービス業などで、設備・施設別に、操業年と土壌汚染の関係を調査した研究結果が紹介されました。

調査目的のひとつは、”操業の長さと汚染の発生率に相関関係はあるのか”というものでした。つまり、長く操業している工場には土壌汚染がある可能性が高いのか、という問題提起です。有害物質を使用していた工場などでの汚染発生確率は、施設の種類別に若干相違があるものの、だいたい50-70%(基準超えは30-50%)という発表でした。

また、操業期間と土壌汚染の発生率との相関関係はあまり明確にはでていないという考察でした。(地下水汚染については操業期間の長さが影響するという結果がいくつかありました。)この調査は、比較的小さな統計母数でしたが、土壌汚染の発生確率について、日米でほぼ同じくらいの確率になっているのは興味深いものでした。

日本で同じ目的の研究はみていませんが、日本のデータとしては、土壌環境センターで資料調査後(つまり有害物質を使用していた履歴などがあることが確認された後)に実施された土壌調査では、基準を超える汚染が発覚する可能性は50-60%程度です。(これについては、数値だけの紹介ですが、以前の講演資料に入れています。)

また、以前環境省のブラウンフィールド調査で実施されている、都市計画地域の用途別に東京都のデータをベースにした土壌汚染の発生確率では、工業専用地域では約35%となっています。

発生確率が高いかどうかについては、いろいろな見解があると思われますが、むしろ残りの3-4割にあたる工場では、長年にわたり操業を続けながらも汚染が発覚しなかったことは有益な数字であるように思います。

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バングラデシュ惨事後の対応:欧米それぞれに

4月のバングラデシュの建物倒壊事故後、欧州企業が5月に今後の対応に関する同意を発表しましたが(以前のブログご参照)、先週アメリカ企業が”The Alliance for Bangladesh Worker Safety“と呼ばれるアライアンスを発表しました。

GAPやL.L. Beanなどの衣料品ブランドのほか、Sears やMacy、Nordstromなどのデパート、Walmart等に加え、カナダの企業や団体のほか、香港ベースの企業も参画予定としています。今後、バングラデシュの工場に対して年1回の監査をすることとしており、実施内容そのものは欧州のAccordと同じようですが、法的な位置づけではなく自主的な取り組みという形で推進しているところが、欧州のAccordとの相違だといわれています。 続きを読む

猛暑と気候変動とビジネスリスク考

日本でも猛暑が続く中、原子力発電所の新たな安全基準に基づく再稼働が申請されました。

各地で夏の平均気温が記録的に高まっているということですが、昨年、海水温度の上昇により冷却水の温度規制から、12日間稼働停止になったアメリカ・コネティカット州の原子力発電所では、同様の稼働停止がないように、5月に米国の原子力規制委員会に要望書を提出したということです。

同じ施設内でも海水の深いところから取水している施設の冷却水は、海水の温度上昇が相対的に少なく、稼働停止には至らなかったということですが、原子力関連の水問題について過去40年の案件がまとめられるなど、もともとこの問題がある程度認識されていたことが示唆されています。

NRCは、さらにデータ提供を求めたというコメントが報道されており、結論は来年以降になるため、今夏も同じ問題が再発することも懸念されているようですが、現状では昨年よりは若干気温も低いということです。

詳細はコネティカット州の新聞に記載されています。

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不動産の責任投資とESG

週末の日経ヴェリタスに欧米年金基金からの投資マネーを獲得するために、国内のREITや不動産会社でESG評価を受ける会社が増えているという記事がでていました。グローバル不動産サステナビリティ・ベンチマーク(GRESB)2013年は、昨年の24社から30社強に広がる見通しということで、海外での責任投資の動きが国内の不動産市場にも広がりつつあるようです。国土交通省での紹介資料はこちらにあります。

このGRESBの地域別参加会社は欧州が過半を占めているように、2009年から欧州で始まった民間の枠組みのようですが、GRIやCERESなどグローバルな組織や、グリーンビルディングカウンシルなど米国やオーストラリアの組織も参画しています。

2013年の調査内容(Survey)をみると、環境面では、エネルギー利用、水利用、廃棄物、土壌汚染のほか、米国で課題となっているカビ(Mold)などのリスク管理項目や、スマートグリッドの導入割合、サプライヤーや工事請負会社のサステナビリティに関する状況などが調査項目に入っています。エネルギーのパフォーマンス項目だけで18項目あり、全体では20ページのアンケート調査ですので回答そのものもたいへんそうですが、物件毎の個別要素が強い不動産全体の状況が把握できれば、投資や管理する側としても新たな発見や評価軸もでてくるのではないでしょうか。

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インドの会社法改正法案とCSR

今週は国会が閉会し、環境関連では、放射性物質を大気汚染防止法や水質汚濁防止法の規制に含める法案などが成立しました。*環境省関連の法案制定状況はこちらから。

今年は、先月のGRI:G4に加え、統合報告ガイドラインも発行される予定となっており、法律だけでなく様々なCSRのルールが更新される予定となっていますが、アジアではCSRに関する法改正や制度変更の取り組みも活発になっています。

インドでは、昨年制定された上場企業への規制のなかで、上位100社に対して、今年度からCSR報告書の作成を義務付けられるようになっていますが、さらに、会社法を改正して一定規模以上の企業に対してCSRの推進を義務付ける方向性が具体化してきています。

昨年インドの下院を通過して、1956年以来の大きな改正になるといわれているインドの会社法の改正版(The Companies Act 2012)では、一定規模以上のインド国内企業すべてに対し、社内にCSR委員会を設置してCSR方針を制定して開示し、毎年、前年の純利益の2%をCSR方針に沿った環境保全、機会均等、教育などの取り組みに使うことを求めており、その支出の実行ができない場合には理由を開示することとしています。

今年度末頃まで上院を通過して制定する方向という見方もあり、改正法が制定されれば、インドで活動する国内外企業へ一定の影響がでてくるといわれています。法案はこちらの135 Corporate Social Responsiblityの項目などに記載されています。

海外グループ会社がある場合や今後の進出予定、主要なサプライヤーの評価など、関連業務がある方々は当面注視が必要になりそうです。

 

 

 

 

 

住宅ローンの評価から省エネ住宅の普及推進:SAVE Act(法案)

住宅の省エネ化における補助金などの公的支援は国内外で一般的な政策ですが、米国で今月初めに上院に再提出された法案では、直接的には税金投入ではなく、住宅ローンの評価の手続きに電気代などエネルギー支出の情報を考慮することを求めることを通じて、市場での評価を促す仕組みを作っていくことを目指しているようです。

省エネ住宅の推進に向けた法律;Sensible Accounting to Value Energy Act (The SAVE Act)は、住宅ローン評価のガイドラインを管轄している住宅都市開発省(Department of Housing and Urban Development, HUD)に、以下の3つの要素を含め、住宅のエネルギー報告の提出を推奨する新たなガイドラインを発行することなどを規定する法案となっています。

①金融機関が、期待されるエネルギー費用の削減分を、その他の支出から控除し、借り手の返済能力を評価する際に組み入れること
②期待されるエネルギー費用の削減分は、現在価値として評価すること
③金融機関は、省エネ住宅のコストと便益を住宅ローンの申込者に提示すること

法案及び関連情報はこちらにまとめられています。

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住宅の環境リスク調査

5月下旬に参加させていただいた富山大学のシンポジウムで、住宅における環境リスク調査の必要性が提唱されており、海外での動向について少しコメントさせて頂きました。

アメリカではラドンやアスベストに関する情報開示ルールが州別に適用されているところがありますが、最近でもこれらに加えて、敷地内の地下タンクや有害物質の漏えい(土壌汚染)などを含めたProperty Condition Reportを住宅取引に義務付ける州もでています。 続きを読む

アメリカ:融資時の環境リスク評価:環境専門家にはプロフェッショナル保険が必要

サンフランシスコで行われたEnvironmental Bankers Associationの会議に米国の中小企業庁Small Business Administration (SBA)の環境リスク管理の責任者と地域の担当官が計3名参加して、2013年3月から施行されている融資時の環境リスク評価プロセスについて説明をしていました。(ご参考

発表内容の大部分は、公表されている文書に記載されているものですが、実際に話を聞くと見落としていた部分などが明確になり、あらためて勉強になります。

会場に参加している金融機関の環境リスク管理の担当者の反応が大きかったのは、SBAのガイドラインに基づき融資時の環境リスクの調査(いわゆるフェーズ1調査やフェーズ2調査)を実施する環境専門家(Environmental Professional, EP)に求められるプロフェッショナル保険についてです。 続きを読む

米国のクリーンエネルギー:シェールガスで若干Slow Down

最近発行されたいくつかのビジネス誌でも、米国のシェールガス革命によってオバマ政権が進めてきた再生可能エネルギーの推進への影響がでていることが考察されていましたが、オバマ政権の第一期でエネルギー省長官をつとめたSteven Chu氏も、同様のコメントをしています。

Chu元長官は、ノーベル物理学賞を受賞した研究者で、以前に在籍していたスタンフォード大学に戻ったところを、サンフランシスコの地元紙(クロニクル)がインタビューしていました。 続きを読む

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