米国で進むランドバンク:下水道などと連携した施策も

国内で800万戸といわれる空き家や増加する所有者不明地の受け皿機関が検討されているが、米国では空き家・空き地の受け皿機関として、州や郡が設立した“ランドバンク”が数多く運営されている。

*写真は米国のフィラデルフィアにある大学構内の写真。 *写真は米国のフィラデルフィアにある大学構内の写真。

ランドバンクは、アメリカで滞納税がある住宅などを州法などに基づき、公的に管理することを目的に1970年代から設立され、発展してきた。滞納税がある物件や投棄され所有者の所在が分からない物件などの権利関係を整理すると共に、老朽化した設備の修理や清掃、建物の解体などを行い、地域の需給状況や物件の状態を踏まえて売却や緑地化、保全管理などを行う。住宅だけでなく、ガソリンスタンドやクリーニング工場跡地などを引き受ける産業用ランドバンクもあり、近年もオレゴン州で設立された。

管理されていない空き家や空き地が増えると、地域全体の治安悪化や地価の下落につながる。このため、公的資金をだしても空き物件を管理し、地域全体の環境を維持管理することの社会的・経済的意義が認識され、特にリーマンショック後に増加した空き家等を引き受けるためランドバンクの法制化が増加した。多くの物件を引き受け管理するランドバンクでは、地理情報システム(GIS)を活用した物件の管理を進めている。

こうした空き物件を地域の老朽化したインフラ整備と連携している取組もある。アメリカ東部ペンシルベニア州で最大の都市であるフィラデルフィア市では、空き地の緑化と共に雨水管理システムを導入し、合流式下水から空き地の雨水処理を分流化して、老朽インフラの整備コストを削減する計画を進めている。

これは空き地を緑化するClean &Greenの取り組みをするフィラデルフィア市の園芸協会(Horticulture Society)と協同して実施しており、年間300~400か所の空き地を緑化している。これらの空き地の地下に雨水分流工事を実施していくことで、下水水量を85%削減し、合流式下水管の更新費用を25年間で30億ドル削減することを目指している。

空き地の緑化によって、空き地の地価上昇率も大幅に増加し、またグリーン・インフラも整備することによるコスト削減の効果も期待できる。

アメリカでは今後20年間で70兆円規模の飲用水・排水インフラの整備が必要と試算されているが、空き地管理と連携した取り組みは米国内でもモデルケースとして研究されている。分流式の下水管は浸水時の下水放流の影響緩和にもつながる。

今後、国内で進む空き地や空き家の受け皿機関においても、地域のインフラ整備などの連携により、コンパクトで災害に強い街づくりに向けた長期的な連携が望まれる。

米国におけるランドバンクの発展経緯

対象用途と分類 主に住宅 産業・商業施設
第一世代 第二世代 第三世代
設立時期 1970年代~90年初期 2000年代 2010年以降 2000年代
設立された市・州 セントルイス、クリーブランド、ルイスビル、アトランタ ミシガン州、オハイオ州 ニューヨーク州、ペンシルバニア州、テネシー州、ミズーリ州等 オハイオ州、ミシガン州、コネティカット州、ニュ-ヨ-ク州、オレゴン州等
主な対象不動産 滞納税・放棄不動産 滞納税不動産すべて 空き家、滞納・投棄不動産 産業・商業不動産
年間の取得不動産 100~500 100前後~2,000 ~1,000前後 ~数十
保有不動産(ロット数) 数百ロット 数千ロット 数十~数万ロット 100前後
主な機能 滞納・投棄不動産の管理が行われる。 滞納不動産の権利等を整理し、再度市場に売却できる。 空き家、滞納・投棄不動産問題の取得、維持管理、再生等 債務整理、調査・浄化を行い市場性を付ける

(出所)住宅都市学会論文(小林・光成)より引用

本稿は環境新聞2019年12月18日号に掲載されました。