ESG投資の拡大と情報開示

新型コロナウィルス後の社会経済において、あらためて安全や地球環境の保全と経済成長の両立を模索するなか、投融資においてもESG(環境、社会、企業統治)に配慮した企業や事業活動への支援を進める動きが活発になっている。

現在、様々なESG投資や、グリーンボンドなどの環境・持続可能性に配慮した債券は、その指標や定義が多数ある。このため、企業側においても開示する項目や開示量を選定しながら、国際情勢や投資家の評価項目に応じた開示を進めている。

日本でも1990年代から環境をはじめとする非財務情報の開示が進み、2000年代以降、社会面・ガバナンスを含めた開示に広がった。現在、アニュアル・レポートと統合した統合レポートの発行が増えている。

こうした非財務情報は、主に規制ではない枠組みにおいて発展してきた。しかしながら、

ESG投資の規模が拡大し、年金運用等を含めた影響が広がる中、ESG投資等の対象範囲を明確にし、その内容や枠組みを明確にする規制の動きが広がっている。

欧州では、19年11月に金融サービス・セクター向けの持続可能性に関連する情報開示に関する規制が制定され、これに基づき、ESG関連の金融サービスを行う際の環境やサステナビリティに関する要素をどのように開示するかが規定された。

この具体的な内容を定めた通称“タクソノミー規制”が、2020年6月に成立し、7月12日から施行されている。今回、規定された環境に関する分類は、気候変動や循環型社会、汚染防止などの6項目(下表参照)に分かれ、このうち気候変動の緩和と適応に関する項目は2022年1月から、その他の4項目は2023年1月から適用される。詳細規定は2021年6月までに開示される予定となっている。

アメリカでは年金基金の運用におけるESG投資の急拡大に伴い、ESGに関する経済的な影響(リスクとリターン)を明確にし、その情報の保管等をもとめる規制改定案が出され、7月末までのパブコメ期間に1,500を超える意見が出された。年金基金等の運用においては退職者の経済的便益の確保が第一義的な目的であるが、昨今急拡大しているESG投資においては、定義やESGに関する格付け等の枠組みも統一されていないため、考慮するESGの要素等を明確にすることを求めるとしている。

また、ESGに関する情報開示の枠組みを設定する機関にも動きがでている。世界的に多くの企業が非財務情報の開示ルールとして参照しているGRI(Global Reporting Initiative)と、業界別の持続可能性に関する主要な指標や開示ガイドラインを公表するSASB(Sustainable Accounting Standard Board)が連携することが7月初旬に発表された。持続可能性に関して包括的な情報開示の規定を示したGRIと、業界内の比較可能性を重視して主要な指標を示すSASBが連携することにより、今後、より実務的に実行可能な情報開示の規定ができてくることも期待される。

ESG投資やグリーンボンドなどの投融資の拡大と、企業の情報開示は、相互に影響がある。情報開示の枠組みが明確になることによって、ESGの観点から企業評価がしやすくなり、金融商品が増え、投融資も拡大することになり、また、ESGに配慮した企業経営が金融市場を通じて経済的な側面でも評価されることになる好循環が生まれるだろう。

EUタクソノミーの環境6区分と今後のスケジュール概要

  環境目標 適用時期
1 気候変動の緩和 2022年1月
2 気候変動への適応
3 水及び海洋資源の持続的活用と保護 2023年1月
4 循環型社会への変換
5 汚染予防と管理(大気、水、土壌)
6 生物多様性とエコシステムの保護と保全

出所)欧州委員会“EU taxonomy for sustainable activities”ページ等より作成

*本稿は、2020年8月19日号の環境新聞に掲載されました。