オリンピックサイトの土壌汚染対策

2013年10月

2012年のロンドンで成功裏に開催された史上最もグリーンなオリンピックにより、開催地での環境・サステナビリティ(持続可能性)への配慮は不可欠になっている。 オリンピックの環境配慮においてはエネルギー効率、水・資材の再生利用、生態系保全等も含め、様々な側面があるが、本稿では、ロンドンオリンピックでの土壌汚染対策を紹介してみたい。

オリンピックと土壌汚染サイトの浄化

すでに紹介されているように、ロンドンオリンピックサイトは、過去150年間産業用地として使用され、欧州最大規模の産業排水処理場の跡地であり、約250ヘクタールが汚染されたブラウンフィールドであった。現在浄化が実施されている豊洲の土壌汚染サイト3工区合計の約6.5倍の広さである。
先進国で行われているオリンピックは、ロンドンに限らず、オーストラリアのシドニーでも、土壌汚染対策の後、オリンピック会場が整備された。2016年開催地であるブラジルのリオ・デジャネイロでも会場となる土地の土壌汚染調査や浄化が進められている。

ロンドンオリンピックの土壌汚染対策

ロンドンオリンピックサイトの土壌汚染調査は、2005年の開催決定の翌年から開始され、2007年までに3500か所からサンプルを採取し土壌汚染調査を実施した。サイトは、重金属、VOC,油の他低濃度の放射性物質にも汚染されており、50のプロジェクトに分かれて、2007年~2009年までに主な浄化工事が実施された。
サイトの浄化は、健康リスクの防止と水辺による汚染リスクの低減という2つの目的に沿って実施された。また、オリンピック全体を通して進められている環境・持続可能性への配慮のために、オンサイト浄化を重視し、掘削した土壌を区域内で処理して再利用する方針とした。
健康リスクの防止については、かつて政府機関であり、現在英国のグリーンビルディングBREEAMの認証等も実施する建物研究機構(Building Research Establishment, BRE)のガイドラインに沿い、表層60センチメートルに分離層(Separation Layer)をつくり、土壌汚染による健康被害防止を確保する方針を適用している。
実際には、サイト内の土壌200万㎥が掘削され、このうち80%は再利用された。サイト内に設置した5か所の土壌洗浄設備は“Soil Hospital (土壌病院)”と呼ばれ、掘削した土壌約70万㎥の土壌洗浄処理が行われた。このほか複数の浄化技術が活用され、約20万㎥はバイオリメディエーションや固化等の処理が進められた。またベンゼン、トルエン、PAHsなどで汚染されていた地下水汚染対策では、暴露経路を遮断して複数の技術を組み合わせた処理とモニタリングが継続され、合計2000万ガロン(約9万㎥)の地下水が処理された。

スピードと対策・品質管理の両立

広大なサイト内は15のゾーンに区分され、350以上の調査報告書が提出された。3万以上のサンプリングと200に及ぶ個別データの品質管理のために、共通の電子フォーマットが活用された。調査や浄化モニタリングの分析結果は5段階のチェック体制をとり、その後にオリンピック実行委員会による確認・承認が行われた。これらの手続きは30ページに及ぶ浄化マニュアルに記載されており、調査や浄化工事を行う請負会社は、マニュアルに沿って各種の届出や承認手続きを行う。最終的に土壌浄化プロジェクトにかかわる1200以上の許認可が発行された。
こうした規模からも推察されるように、浄化計画の達成とスピードのバランスは困難な課題であったとされている。その後の建物の建設期間を確保するために、基礎となる土壌浄化は限られた時間の中で実施しなければならず、初期調査、詳細な契約事項、円滑な協業に加え、一定の柔軟性も重要であったと記されている。

オリンピック開催後

現在、オリンピック会場は、“エリザベス女王オリンピック公園”に向けた跡地整備が進められている。ロンドンオリンピックは、開催後にもロンドン近郊の公園とリクリエーション施設として、資材を再利用しながらできるだけ低コストに跡地利用をすることが当初から計画されていた。オリンピックを契機にしたロンドン郊外の大規模な地域再生プロジェクトとなっている。またロンドンにおけるグリーンオリンピックの技術・ノウハウを2016年のリオデジャネイロのオリンピックに支援する方針も表明している。

2020年の東京オリンピックも、湾岸部の再開発を含めた大規模な開発プロジェクトがスタートし、情報も開示され、世界のショーケースとなることが予想される。建物だけでなく、都市再生において不可欠な土壌汚染対策においても、海外展開が可能な技術とソリューションが生まれるように期待したい。

画像_オリンピックサイトの土壌汚染対策
炭化水素/
有機物
塩素溶剤/
VOCs
重金属 PAH/
タール
PCBs 農薬 シアン
化合物
バイオリメディエーション
酸化分解法 六価クロム
化学処理
固化・不溶化
土壌洗浄
熱分解
出所:主な汚染処理技術 Learning legacy; lessons learned from the London 2012 games construction project.
※上記はオリンピック実行委員会からの公表資料 (london2012.com/learninglegacy)よりまとめています。

※本稿は2013年10月に環境新聞に掲載された記事を、同社の承諾のもと一部編集して転載しています。