世界の流通大手を中心に進むCSRのサプライチェーン管理

2012年1月

環境・社会面のリスク管理をサプライチェーンで実施する動きが加速している。
新興国での調達が重要になるなか、世界の大手ブランドが情報共有に乗り出した。

環境・社会面のコンプライアンス(法令順守)について、企業活動の上流から下流も含むサプライチェーン(SC) 全体を通して管理しようとする企業が増えてきた。先進国の一部の大手企業では、グローバルのSCにアンケート調査や工場監査、教育プログラムなどを実施している。

最近では、企業間で連携する動きが活発だ。互いに競合することなく、情報を共有しながら取り組みの質を高めるための枠組み作りが、海外の大手流通業が中心に広がっている。特に主要な調達先になった新興国での不祥事や事故によるブランドの毀損を防ぐといったリスク管理につなげる狙いがある。

2011年10月、グローバル・ソーシャル・コンプライアンス・プログラム(GSCP)の年次会議が米サンフランシスコで開催された。GSCP は、消費財関連の世界最大の業界団体コンシューマー・グッズ・フォーラム(TCGF)の関連組織として、2006 年に設立された。

業界別に乱立する環境・社会面のコンプライアンス・チェックリストをまとめ、共通項目の開発を完了。2012 年初頭には、中国語の翻訳版を公表する予定だ。さらに、特定の企業が新興国で実施した監査の結果を別の企業でも活用できる仕組みを構築する計画で、大手3 社がバングラディッシュでのパイロット・プロジェクトを実施している。

参加企業にとっては、企業監査などの重複を排除してコストを削減するとともに、共通の課題である環境・社会面でのリスク管理のノウハウを共有できる。監査を受ける新興国の企業にとっても、重複監査を回避できる。

会員企業は小売業だけでなく、各業界の大手ブランドが名を連ね、その売上高の総額は100兆円を超える(下の表)。今回の会議には、アジアで初参加となるヤマダ電機がメンバーに加わった。

GSCP のクラウディーヌ・ムスリン事務局長は、「私たちの取り組みは、グローバル化が進む調達のなかで、企業のニーズから生まれたもの」と言う。「日本をはじめ、アジアからの関係者との連携は重要」と見ており、2012年の年次総会は中国で開催する予定だ。

ヤマダ電機は、山田会長の下、部門横断型でCSR経営を推進している。2011 年10 月末に実施された、GSCPの年次会議に出席した加藤等・CSR推進室長は、「取り組みの進んだ海外企業と情報共有できる枠組みは有効だ」と評価する。

日本国内でも、2011年11月に消費財関連のメーカーや企業が「日本版TCGF」を設立し、サスティナビリティや復興分野での業界を超えた活動を始めた。今後、国際展開を強化する企業が増える中、国内での取り組みに加え、原材料を調達する海外企業とのCSR関連の情報共有は、大きな価値になるだろう。

GSCPの主な参加メンバー(2011年末時点)

小売・GM ウォルマート, テスコ, カルフール, Coop, JCペニー
スポーツ用品 アディダス, ティンバーランド
食品 ドール, スターバックス
電気製品 デル, ヒューレット・パッカード
家電量販 ベスト・バイ, ヤマダ電機
その他 イケア, ウォルト・ディズニー

※本稿は、日経エコロジー2012年2月号に掲載されたものです。同社の許可を得て転載しています。