米国でのEDD活用の動向(1)環境保護庁での活用状況

2013年11月

米国でも、日本や欧州などと同様に、大気、水、廃棄物、土壌、化学物質等に関する各種規制があり、様々な規制に沿った届出や許認可、報告が必要になっている。手続きや届出の多くは、依然として書面が多くなっているが、現在進められている規制改革により、EDDのような個別プログラムだけでなく、環境行政全体として電子化を推進する方向性が示されている。

大統領令に基づくオバマ政権の環境規制改革

2011年にオバマ大統領の発行した大統領令13563号は、既存の規制評価とその改善を求める内容となっている。これは、クリントン大統領が1993年に発行した大統領令を引き継ぎ、規制の費用便益を重視すると共に、過去の規制方法を見直し、現在の有用な技術を積極的に活用することを各省庁に命じている。その後発行された大統領令13579号と13610号により、規制改革の内容を一般公開することと、規制の負担を減らすことを明示し、効果的な成果を目指すための改革を遂行する方針を明らかにした。

前述した大統領令のもと、アメリカ環境保護庁(US PEA)では、2011年に“Improving our regulations: Final plan for periodic retrospective reviews of existing regulations(規制改善に向けて:既存の法規制の定期的調査に関する最終計画書”を公表した。ここでは以下、4つの大方針と、35の優先的な規制を提示し、2016年まで5か年で一定の成果を上げることを目標としている。

オバマ政権におけるEPAの規制改革方針

  1. 電子報告
  2. 透明性の向上
  3. 革新的な法律順守の取組
  4. システム的な取り組みと、総合的な問題解決

第一に掲げられている電子報告は、最新のIT技術を活用し、紙による報告書を削減すると共に、電子データによる手続きの変更を促進するものである。実際に、本規制改革の第一項目として取り上げており、規制改革の全体を通じて21世紀型の最新情報技術(IT)を活用することの重要性が示されている。ハイスピードでリアルタイムのデータを把握・管理することにより、単にコスト削減するだけでなく、地域住民へ迅速な情報提供をすることができる。また、汚染物質を大気、水、土壌等の異なった媒体から受ける暴露経路等を分析することにより物質の毒性や人体への影響分析もより高い精度で実施できる。さらに、一般市民が環境状況をより適切に把握し、環境問題に対応することもできるとしている。

電子報告の対象になる規制のうち、早期改革が求められる16のうちの一つが、化学物質の規制(化学物質管理法、TSCA)の電子報告である。新規の化学物質を製造する場合に、製造会社等が届出を義務付けられているもので、これまで書面での提出であったシートを電子化に一本化し、サマリーとテストデータを書面から電子フォーマットに切り替える。すでにeTSCAと呼ばれるプラットフォームができているが、これらをすべて電子化する方向になっている。

これ以外に、有害廃棄物のマニフェスト、既存工場等の財務証明手続、大気浄化法、農薬法の手続きなども含まれており、将来的にはEPAに提出するすべての報告書や手続きは電子化する方向を示している。

格段に進んでいる電子化の動向

EDDだけでなく、米EPAでは1990年代後半からデータによる届出や報告手続きを進めており、現在は、“中央データ交換”Webという仕組みにおいて、大気、廃棄物、水、施設、化学物質等の規制の届出や報告、承認、データの編集、保管などができるようになっている。

2005年からは、この電子報告に関する法的枠組みが確立され、対象となるプログラムについては電子データの提出が求められるようになった。現在、連邦政府、州政府などの63のプログラムが参加して、30万を超えるユーザがWeb上でデータ提出や報告を行い、それらを保存・管理する仕組みになっている。

今回のオバマ政権の環境規制改革では、すでに進んでいる米国の環境規制における電子報告をより普及させ、最終的には環境法規制に関わる届出や許認可をすべてWeb上で実施する方向を示している。

2016年までまだ規制改革の途上にあるが、環境規制の多くは有害物質とその定量データを伴う環境計量分析と不可分である。米国で環境規制に基づくデータの電子報告が拡充することにより、環境計量分析を含めた、環境産業全体の管理・業務の電子化・IT化の流れも加速することになると予想される。

参考資料・Web等

本稿は、(社)日本環境測定分析協会「環境と測定技術」2013年11月号に掲載された内容を同誌の承諾を得て一部編集して掲載しています。