米国でのEDD活用の動向(2)緊急時対応

2014年1月

共通の電子フォーマット(EDD)を活用して分析機関が環境分析結果を作成することにより、データの品質管理や異なった地域間のデータを素早く分析することができ、事故や災害時における迅速な評価と対応につなげることができる。今回は緊急時に備えた分析会社の体制とそこでのEDDの活用について紹介したい。

環境分析のネットワーク

米国では、環境保護庁(Environmental Protection Agency, EPA)が所管する、化学、生物、放射性物質関連の事故や緊急事態に対応するための、全米各地の官民分析機関のネットワーク(Environmental Response Laboratory Network, ERLN)がある。
一分析機関では対応できない大規模な事故や事象に対して、全米の分析機関が、あらかじめ定められた電子フォーマット(EDD)による分析をすることにより、迅速に、汚染物質の分析を行い、対応できるような体制を整えている。
ERLNは、環境分析結果を取り扱う環境保護庁のユーザーが必要なデータを迅速に分析することができるように、分析手法、品質保証、品質管理データ、物質別のコード、分析結果の電子フォーマット(EDD)など詳細な必要要件が、3つのパターンに分けて整理し、登録している分析機関に公開している。
分析機関は、あらかじめ規定された分析を実施し、その結果を提出することに同意して、定めた官民の分析会社があらかじめ登録をし、必要事項に応じた分析を実施し、分析結果を電子ファイルで提出する体制を整えておく必要がある。
この電子ファイル・フォーマットは、これまで紹介しているEDDであり、3つのパターンに沿って、簡便なタイプ1から、詳細データが求められるタイプ3までそれぞれの必要事項が整理されている。

飲用水

ERLNの関連組織には、飲用水や廃水、下水等の汚染物質を分析する分析機関のネットワーク、“Water Laboratory Network(WLN)”がある。ここでは800種類以上の汚染物質を200以上の分析手法で分析できるデータベースを整えており、ここに登録する分析機関で分析された結果は、電子ネットワークで分析結果を毒物や疫学の専門家が評価し、緊急時対応が可能な仕組みを整えている。
上記の環境(ERLN)及び飲用水の分析ネットワーク(WLN)では、分析結果をWeb上のツールで自動評価し、異常値がないか、分析結果の品質管理を自動検証することが可能になっている。

他省庁との連携

ERLNは、環境保護庁が管轄する環境汚染の分野だけでなく、他省庁の管轄部門との連携をしながら、食品、動植物の検疫などと分析結果を相互に解析・評価する体制にも参画している。
2005年に設立された 分析機関ネットワークの統合コンソーシアム(Integrated Consortium of Laboratory Network, ICLN)は、国土安全保障省(Department of Homeland Security, DHS) のもとで、動植物の疫病、食品、環境、国防省などの分析機関ネットワークが統合して、緊急事態に迅速な分析結果の共有をできる仕組みとなっている。
この仕組みには、環境保護庁のほか、農務省、商務省、エネルギー省、労働省、食品医薬品局(FDA)、国土安全保障省、国務省、内務省、法務省が参画しており、覚書を締結して緊急時に必要な連携を取る体制を整えている。

環境分析を行う、大気や水、土壌などの分析と共に、動植物、食品などの分析を統合することにより、分析結果の検証や原因把握もより統合的に迅速に実施することが可能になる。緊急時に正確な情報をもとに、専門家の適切な判断を迅速に公表することは、様々なリスクの回避につながることになる。クラウド上にデータを保存することで、災害や事故の影響を受けない地域でデータを復旧させ、BCPにもつながる。環境分析データの電子化のメリットや裾野は大きいと言えるだろう。

参考情報

http://water.epa.gov/infrastructure/watersecurity/wla/index.cfm#factsheets http://water.epa.gov/infrastructure/watersecurity/wla/upload/epa817b12001.pdf

本稿は、(社)日本環境測定分析協会「環境と測定技術」2013年11月号に掲載された内容を同誌の承諾を得て一部編集して掲載しています。