CSRと地域社会:欧州で始まるCSR報告の義務化

2014年5月

4月に欧州で企業の社会的責任に関する情報開示について大きな動きがあった。500名を超える従業員のいる企業に対し、今後、対象各社における重要な環境や社会面の情報を年次報告に含めて開示することを義務づける法律が制定されたのである。
欧州では、若者の失業者や労働の多様化などの社会的な課題からCSRの動きが始まり、企業が社会と一体となって解決する仕組みの構築をめざし、制度的取組が進んでいる。北欧諸国などではいち早く上場企業に対して環境や社会・労働情報の開示を義務づけており、その動きが徐々に世界全体に広がっていく例もある。

今回成立した法律では、上場企業をはじめ、公益性の高い金融機関などを対象に、各社にとって重要な環境や労働など社会面の情報を毎年開示することを求めている。2017年に向けて、約6000社が対象になるといわれる。現在、CSR情報を定期的に開示している欧州企業は約2500社であるから、その数は約2.5倍に増加することになり、今後数年で欧州企業のCSR情報の開示が大きく進むことになる。
開示情報には、環境や労働面の情報に加え、取締役会の役員のダイバーシティ(多様性)に関する情報も含まれている。持続可能な成長における企業のガバナンスや透明性の向上を目指しており、取締役の性別や出身地域、専門性などの多様性の内容も開示することが求められる。

一方、中小企業には情報開示の負担を配慮して開示は義務付けされていない。また、開示義務の対象となる大企業等に対しても、特定のガイドラインや基準に基づく開示項目を義務づけるのではなく、各社にとって重要と考えられるCSR情報を開示するという柔軟性が残されている。

これらの動きは、数年前から進められている欧州全体における企業の社会的責任(CSR)、すなわち、持続可能な社会に向けた企業経営の在り方を進化させる取組の一環として行われている。欧州では2011年に策定したCSRの取組方針の中で、上述した環境や社会面のCSR情報の拡充や企業経営の透明性の向上を掲げ、欧州地域の取組と世界の取組を連携させながら進めていくという方針を示した。
また、米国でも持続可能性報告の業界別の開示ガイドラインが段階的に発行されている。米国外の多くの企業や関係者が参画し、事業別にCSRの開示項目の標準化を図っていこうという動きがある。米国上場企業の財務報告書には、紛争鉱物に関する取引状況を開示することが義務付けられるようになっており、取引先となる日本企業にも、サプライチェーンとして調査の必要性などがでている。
このように、今回の欧州での法制化の動きは、単に海外での動きと捉えるよりも、数年から10年程度の時間軸で、世界全体で大きな企業経営の流れになる動きとして見ることが重要であろう。CSR情報はこれまでの自主的な開示から徐々に開示責任の義務化の動きがでているといえそうだ。

*本稿は、2014年5月に通信新聞に掲載された内容を、同社承諾のもと一部編集して転載しています。