前回紹介したように、環境ビジネス市場は、世界的な環境政策の推進と各国・地域の環境規制強化に伴い、企業や公的機関の取組が推進され、堅調な成長が予測されている。
アメリカの環境ビジネスジャーナル(EBJ)では、世界の環境ビジネスについて以下3つの傾向を考察している。
第一は、グローバル化による技術やイノベーション、規模のメリットだ。欧州の水処理技術のアジアでの展開や、米国・オーストラリアの有機フッ素化合物(PFAS)浄化技術の欧州での適用、中国の太陽光発電設備の世界展開など、各国の先進技術が世界に普及することで環境保全を加速することができる。グリーンボンドや世界的な気候ファンド等により、世界中から資金調達が可能になり、またグローバル展開する環境コンサルティング会社によって環境関連のエンジニアリング技術やソリューションが、各国で展開されるようになっている。欧州の環境規制や世界的な情報開示等に伴い、大手多国籍企業が世界全体でCO2削減や標準化された環境管理を進めることも貢献している。
第二は、昨今の紛争や地政学的緊張に伴う保護主義的な動きや関税交渉に伴う分断だ。欧州の国境炭素税や中国のレアアース輸出制限等により、サプライチェーンが分断し、ドイツ、日本、米国のように自国で技術を持つ国と、持たない国との格差が広がっている。PFASやプラスチック汚染、越境地下水汚染問題、森林や漁業管理等にも不調和の影響があるだろう。
第三は、主に多国籍企業に対する規制・基準コストの増加と対応の複雑化である。大手企業は世界的にCO2の削減と資源循環を推進する必要がある一方で、許認可や環境・社会・がば難んす(ESG)開示基準、CO2の算定基準等、各国での規制遵守との両立が求められている。複雑な規制対応により、スケールメリットが得られにくくなっており、データ管理や人材不足も指摘されている。
米国の環境ビジネス市場は、トランプ政権の政策方針を反映し、今後4年間はやや成長が鈍化するセグメントもあると予測されている。2025年7月に成立したワン・ビッグ・ビューティフル・ビル(One Big Beautiful Bill Act, OBBBA)では、電気自動車(EV)や住宅、再生可能エネルギープロジェクトの税制優遇の適用期間が大幅に短縮された。バイデン政権下で大きく成長したこれらの気候変動関連の市場は成長がやや緩やかになる一方、大規模プロジェクトの許認可の円滑化や短縮化、水資源や送電インフラへの補助が拡充され、プラス面もあるとされている。
欧州では、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)や森林破壊防止規則(EUDR)、企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)等が大企業から順次義務化される。温室効果ガスのスコープ3と同様に、大手企業は、サプライチェーンを含むバリューチェーン全体で、環境や人権への配慮が求められるようになっており、リスク管理と情報開示が求められる方向となっている。
環境問題では、古くから“Think global, act local”と言われてきたが、環境ビジネスにおいては、各国や州・地域別の規制や自然環境の相違から、実際にはローカルな事業展開が多かった。しかし、グローバル展開する大企業への支援に加え、新興国における気候関連プロジェクトや、欧州から始まっているバリューチェーン全体に対する規制により、環境コンサルティング業界で、世界全体にサービスを広げるようになり、上位企業の寡占化も進んできている。
EBJ誌と提携している英国のEnvironmental Analyst社の試算では、環境コンサルティング業界の世界上位4社を占めるWSP, Jacobs, Tetra Tech, Aecomのシェアは、2018年の24%から2023年に35%まで拡大している。これらの4社は活発なM&Aによる規模の拡大を推進しており、4社平均で、売上は2023年は前年比27%成長し、4社とも二桁成長を達成している。サービスメニューの拡充も進んでおり、サステナビリティ全体の支援にシフトしてきている。
本稿は環境新聞(2025年10月15日号)に掲載されました。