アメリカだけでなく、欧州やアジアにおいても産学官それぞれの領域で、環境分析データの電子化は進んでいる。
欧 州
欧州では、EDD(Electronic Data Deliverables)という名称を用いないこともあるが、すでに電子納品の取組は、多国籍企業の環境マネジメントのツールとなっており、大手分析会社のサービスとしても一般的になっている。また、公的機関が実施する大規模プロジェクトにおいても、電子データの活用は広がっている。
例えば、2012年に実施されたイギリスのロンドンオリンピックの競技場サイトの土地整備においては、工事請負企業に同じ電子フォーマットによる報告を徹底させている。
ロンドンのオリンピックサイトは、かつて150年以上も使用された産業排水処理場の跡地であり、重金属やVOC等などが土壌や地下水にある複合汚染サイトであった。このサイトを2005年のオリンピック招致決定時から調査を開始し、4年以上かけて調査と浄化を行い、オリンピック会場を建設すると共に、土地再生に成功した。ロンドンオリンピックは、オリンピック史上最もグリーンな大会であったと称されるように、浄化工事にあたっても資材の再利用や廃棄物の削減などを重視し、また調査や浄化のプロセスも重視し、大会全体を持続可能性(サステナブル)な視点で準備し、完成させてきた。
当初より多額の浄化費用が想定されており、定期的な浄化の進捗やモニタリング状況を報告し、適宜関係者に公表するため、調査や浄化工事を請負う企業に、共通の電子フォーマットでの報告を求めている。現場では、データのエラー防止と品質確保のために、現場の作業者、監督者、元請企業、発注組織と、以下5段階の承認プロセスによる管理が行われた。具体的には、①現場でのサンプリング・分析結果を工事会社が評価、②元請企業のコンサルタントがレビュー、③プロジェクト管理会社が電子データの確認、④オリンピック実行委員会のデータポータルに提出・確認、⑤公開用サイトにアップロードする際にWeb管理者がデータ確認という厳格な手続きとなっている。これらのデータは3500か所以上にのぼるボーリング調査地点の計200万以上のデータになったと報告されている。オリンピック会場の建設時期を控えて、迅速・正確に浄化工事を管理するために、電子データによる一括管理は不可欠であったと報告されている。
アジア地域
アジアではシンガポールや台湾、香港等で、欧米やオーストラリアなどのエンジニアリング企業、分析会社が事業を展開しており、これらの企業が現地サービスとしてEDDを活用したサービスを実施しているほか、シンガポールでは政府への届出や提出書類の電子化も進んでいる。
シンガポールはアジアでも最も電子化が進んだ国の一つであるが、既存建物の8割を2013年までにグリーンビルディングにするなど、環境や持続可能性、エネルギーなどにも先進的な政策を打ち出している。
建物・不動産等に関連する環境・エネルギー関連のデータについても電子化が進んでおり、電子納品の義務化も始まっている。昨年、既存の建物にエネルギー消費動向の報告を義務づけるために法制化されたエネルギー管理法では、同国内の200の大規模施設の事業者等に対してエネルギー消費データを電子上で提出することを義務付けられている。
建物や不動産管理におけるデータの電子化も非常に進んでおり、手続きの迅速性や透明性の高いビジネス環境が世界的にも評価されている。建物の認証や許認可なども電子ポータルを通じて行う形となっている。今後、環境やエネルギー関連のデータの電子化もますます進んでくると考えられる。
こうした取り組みは多くの企業で導入が進んでいるエネルギー管理ソフトウエアとの連携により、管理が容易になるという利点もある。また、社内や拠点内で管理している電子データを、行政提出用の書面に書き写す手続きも省力化され、データの修正や変更、アクセス記録もすべてデータのログとして残される。このため、データ管理の効率化や正確性だけでなく、データ管理の信頼性に役立っている。大量の数値データと共に定性データを取り扱う環境分析においては電子化によるメリットは、分析会社だけでなく顧客や行政機関にも大きな効果をもたらすこともあり、世界的に電子化の動きが進んでいる。