世界の環境ビジネスの市場のなかで今後の成長が期待されているのは、多くの分野で中国に続き第二位の市場規模をもつインドだ。
気候変動については中国の2060年目標より10年先である2070年に、ネットゼロを目指しているが、インドの大手企業60社以上は、2070年以前にネットゼロを達成することを公表している。
大手企業の環境やサステナビリティの取組は、法律や上場企業の開示義務として早くから進められてきた。2013年に世界で初めて会社法においてCSR(企業の社会的責任)を明示し、一定規模以上の企業に対し、純利益の2%を環境保全や社会貢献に支出することを義務付けた。2020年には労働安全衛生規定が制定され、2022年度からは、上場企業7,000社超のうち時価総額の高い上位1,000社に対してサステナビリティ開示を義務付けた。
大手企業では、環境やサステナビリティの取組は、CSRの部署に留まらず、製品デザインや調達、価格戦略、ブランド戦略等に広がっており、消費財メーカーでは製品の差別化に、また不動産開発プロジェクトでは気候リスクのあるエリアを考慮したプロジェクト設計を進めているという。
一方、国全体としては、都市部以外の地域で、様々なインフラ環境が整備されていなかったことを踏まえ、この数年で急速に整備が進められている。2019年に家庭への水道インフラ整備のプロジェクトが開始され、総額約510億ドルの予算が州に配布された。2019年当時、約18%だった家庭への水道水供給が2023年には56%、2025年時点では81%まで達成されている。飲用水の検査機関は全土で2,800超あり、年間に実施されるサンプル検査数やその基準達成状況等が州別に公開されている。
また、大気汚染についても長期目標が設定され、インド国内で大気汚染の深刻な100以上の都市の大気環境の改善や、石炭火力発電所でのPM、SOX・NOX等の削減を進めている。
米国商務省国際貿易局は、インドの環境ビジネスについて、2024年時点に下記のように予測している。
- 廃水・水処理市場:現在約110億ドルで世界5位の市場、2026年には180億ドルに成長
- 大気汚染管理:中国に続き世界第2位の市場規模で、インドの大気汚染管理システムの市場規模は2021年40億ドルから2029年に60億ドルに成長
- 一般廃棄物処理市場:中国に続き世界第2位の市場規模で、2023年に320億ドルの市場規模で、2028年には36億ドルの市場に成長
- 気候関連の投資機会:世界で4位の規模があり、2018年から2030年までに3兆ドル規模
- インドのCCUS市場:まだ初期段階で今後急成長が見込まれると予測されており、2050年には1,000億ドルから1,500億ドル規模になる。
過去数年間、米国はインドの環境技術の輸入に対して約13%を占めている。上述した水道インフラ整備に加え、排水や大気汚染対策等、国土全体で環境衛生インフラを整備する段階にあり、今後もビジネス機会が続くとみられる。
現在、多くの日本企業がインドに進出しているが、インドの環境ビジネスも日本企業にとって大きなビジネスチャンスといえるだろう。
*本稿は環境新聞(2025年11月19日号)に掲載されました。