2030年に向けた脱炭素のための青写真

バイデン政権が脱炭素政策を打ち出し、様々な施策が公表され、カナダからの石油パイプライン建設の許可取消など、経済的にも影響のある取り組みがはじまっている。

こうした中、全米科学アカデミー、全米技術アカデミー、全米医学アカデミーは、2050年にCO2排出実質ゼロ(ネットゼロ)を達成するための、技術、社会経済の目標とそのための主要政策をまとめたレポートを2月初旬に公表した。

このレポートでは、2050年までの30年間のうち、2030年までの初めの10年間におけるネットゼロ社会に向けた政策の青写真を示したもので、交通、電力、建物、産業部門においてどのように脱炭素を達成するのか、政策の推奨事項なども示している。

具体的な数値目標としては、2030年までに、カーボンフリーの電力を少なくとも75%にし、ゼロエミッション車を新車販売の50%にすること、また、新築建物のエネルギー総量を2030年までに半減し、既存の建物については、空調やコンセントで使用する機器のエネルギー使用量を30%削減する必要があるとしている。

また風力や太陽光などの再生可能エネルギーの使用を広げていくため、現在の送電容量を40%拡大し、国全体で電気自動車による充電ネットワークを拡充する必要があるとしている。

政策的には、広く炭素税のような仕組みを取り入れると共に、300億ドル(約3.3兆円)規模のグリーン銀行を設立し、民間投資を促進することを提唱している。同時に、雇用や地域に関するエネルギーの移行期を支援する国家以降タスクフォースを設置し、包括的な教育研修システムをつくり、ネットゼロ社会と将来のイノベーションを促すことを推奨している。

いずれの目標値も推奨政策もこれまでにない大きな数値や内容であるが、脱炭素は技術的には可能であるとし、この過程を通じて米国内の製造業、建設業、サービス部門を通じて米国経済をより強くしていくことを目指すべきとしている。

各国のエネルギーや経済社会の枠組みも異なり、また本提唱が米国の政策や規制にどの程度取り入れられるかは未知数であるが、脱炭素に向けた方向性として参考になる。日本の脱炭素政策においても、技術革新を促すと共に、その普及を進め経済と環境が両立する社会に向けた政策を期待したい。

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米国の脱炭素化に向けた技術・社会目標

技術面の目標 社会経済面の目標
カーボンフリー電力の生産交通、建物、産業における電気化エネルギー効率と生産性向上への投資重要インフラの計画、許可と建設イノベーションツールキットの拡充 米国経済の強化平等と包摂の促進地域、ビジネス、労働者への支援費用対効果の最大化

出所)The National Academies of Science/Engineering/Medicine, “Accelerating Decarbonization of the U.S. Energy System”(2021年2月)

*本稿は環境新聞(2021年2月17日号)に掲載されました。