米国環境ビジネス会議報告(上)

環境ビジネス会議は、米国の環境ビジネス市場レポートを発行するEnvironmental Business International社が、毎年開催しているが、今回は石油・ガスビジネスが盛況なテキサス州ヒューストンで初めて開催された。厳格な罰則規定の法規制のもと、潤沢な資金や金融サービス、最新技術・ITなどを活用し、多彩なサービスを展開する米国環境ビジネスの概要を紹介したい。

米国の環境ビジネスは、大気、水、廃棄物、土壌汚染などの法制化後の1980年代に急成長し、その後、政権による制度や経済的な影響を受けながらも、概ねGDPよりも高い年間3-4%の成長を続けてきた。世界全体で約130兆円市場といわれる環境ビジネス市場のなかで、最大規模の約44兆円(4000億ドル)の市場であり、米国GDPの2%強を占めている。

過去10年の大きなトレンドの一つは、米国内でエネルギー由来のCO2が減少傾向にあることである。石油・天然ガスの需要は強いものの、石炭消費量は減少しており、風力・太陽光などの再生可能エネルギーの導入が増加し続けている。

民間企業のグリーン電力の導入は増加し続けており、近年は、小売大手のターゲット社やウォルマート社が太陽光発電を活発に導入している。グーグルやマイクロソフト、アップルなどはすでに自社で使用する電力の100%以上のグリーン電力を導入しているほか、銀行や製造業、大学など 800以上の組織で100%グリーン電力を使用している。日本でもこうした再生可能エネルギーを100%にするRE100への加入企業が増える傾向だ。

また、米国では、今後、再生可能エネルギーが定着するうえでの送電網(グリッド)の安定性に向けて、当面は、再生可能エネルギーと蓄電の組み合わせにも注目が集まっているという。

州別ではカリフォルニア州の動向が注目されている。カリフォルニア州は、もともと米国の中でも有害物質のラベル表示規制「プロポジション65」や排出権取引、また最近ではプラスチック製のレジ袋やストロー規制など独自の規制を先行している。

2006年に制定されたカリフォルニア温暖化解決法(AB32)では、CO2排出量を2020年までに1990年レベルに削減するという目標を2016年に達成し、2030年までに1990年レベルから40%削減するという目標を再設定した。2045年までにすべてのセクターでカーボン・ニュートラルを実現するとしている。

また、産業施設周辺の大気汚染の状況を近隣住民の専門家などから構成される地域委員会が監視し、政策提言できる仕組みを導入した。SNSの普及によって、地域住民の意見が広がりやすく、他州や連邦政府に先行した制度運用が始まっている。

トランプ政権は、米連邦環境保護庁(U.S.EPA)の予算削減やパリ協定からの離脱、オバマ政権で停止されていたカナダとの天然ガスパイプラインXLプロジェクトの再開など、産業界、特に石油ガス事業や製造業への支援を、環境保全よりも優先するという報道が目立ちがちである。

しかし、ハリケーンや豪雨、山火事など、自然災害の甚大化や異常気象などにより、気候変動の経済的影響は大きくなっており、防災対策と一体化した環境保全やインフラ強靭化に向けて、州政府等でマスタープランの策定や予算化が進められている。また、ドローンを活用した生態系調査など民間の環境ビジネスでも最新技術の実用化も進んでいる。多様な分野に広がる環境ビジネスを支える人材をどのように維持し、育てていくかもカギとなっているようだ。

*本稿は環境新聞2019年6月5日号に掲載された、筆者の米国環境ビジネス会議への参加報告です。